REPORT
絵から自分の世界を展開する
イラストレーション領域編
イラストレーション領域ってどんなところ?
キャラクターやパッケージを彩る装飾画や挿絵。そしてマンガや絵本。イラストレーションはあらゆる分野で活用されています。イラストレーションにできること、それはアイデアを形にして伝え、人々を楽しませたり共感を得ることです。イラストレーション領域では、社会で必要とされる美術表現として、さまざまな技法、メディア展開、応用を探求していきます。
*イラストレーション領域は2017年度より、9コースに改変・新設し、カリキュラム内容も変更されています。
ときにデザイナーやプロデューサー的視点で制作する
「イラストレーション」と一口に言っても、様々なジャンルやアウトプットの方法があります。イラストレーション領域の展示では、その多様性や可能性の広がりを手に取るように感じることができます。今回は優秀賞を中心に、イラストレーション領域の幅広い表現を紹介していきます。
まずは、「ORANGE NIGHT DREAM」(杉本真歩さん)
どこかノスタルジックで愛らしい3つの物語を絵本にし、ポストカードやレターセット、トートバッグなどに展開。ひとつのお店のように展示されていました。
「今は誰もが発信できる時代。学生たちも『デザインフェスタ』などに最初はお客さんとして見に行って、次は友達と一緒に出店したりもして、制作するだけでなく、どんなふうにプレゼンテーションすればよいかを考えたりしていますね」と、イラストレーション領域・田中真一郎教授。
「鈍色(にびいろ)のアルカナ」(張 寿榮さん)は、78枚のタロットカードのなかでも、最も重要とされ、抽象的な概念を示す22枚の大アルカナをテーマにデザインした作品。
大アルカナが示す曖昧な概念が、美しい人物イラストで再構成されることで、直感的に解釈できるようになっています。並んだ22枚のカードに足を止め、「これ欲しい〜!」という鑑賞者の声も聞こえてきました。
描くだけでなく、生み出したキャラクターやイラストをどのように展開するか。デザイナーやプロデューサー的な視点を持ちながら制作していくことも、イラストレーターに必要な要素なのかもしれません。
画力と物語を生み出す力、そして言葉を紡ぐ力も必要とされるマンガ表現
イラストレーション領域では、マンガを制作している学生もたくさんいます。キャラクター、ストーリー、コマ割りなど、それぞれがオリジナリティ溢れる手法で作品を生み出しています。
展示会場の一角には、製本されたマンガを自由に読めるスペースもあり、つい夢中で読みふけってしまう鑑賞者の姿も多く見られました。
「ただいま、ダルセーニョ」(朴 玲華さん)は、吃音に悩みながら中学高校と朝鮮学校へ通い、吹奏楽を通して自分を表現する喜びを得た自身の経験から生まれた作品。キャラクターが放つ、リアリティある言葉のひとつひとつが、強く心に残ります。
「ただいま、ダルセーニョ」はその後、COMITIA123で行われたモーニングツー×ITAN アフタヌーン 即日新人賞選考会で優秀賞を受賞。『ITAN44号』(講談社)で掲載され、デビューを飾りました。
独特の表現方法を突き詰める
「sparkle」(堀川理沙さん)は、染料を使ったイラストと小さなおもちゃや雑貨を組み合わせた大型の作品。
実は堀川さん、とある授業がきっかけで作風がガラリと変わったのだそう。
「遠近法で風景を描く授業だったんですけど、色ボールペンで一生懸命描いていました。授業の狙いとは違いましたが、絵がすごく面白いなと思ったんですよね。そうして色を使い始めてからスコンと抜けたというか、カラフルでポップだけど、独特の表現に行き着いた感じがします」と田中教授。
アーティスト、デザイナー、イラストレーター、それらすべてを網羅しているようでもあり、かといってどれかに限定される表現とも少し違う。イラストレーション領域の魅力は、イラストから枝分かれする世界の幅広さにあるのかもしれません。
なぜこれだけ多様な表現がひとつの領域から生まれているのかを、田中教授に尋ねると、こんな答えが返ってきました。
「1年生、2年生はスキルを学ぶ授業が多いんですけど、よく高校生にも話すのが“食わず嫌いでやるといいよ”ということ。大学ではたくさんのことをやりますから、なかには“二度とやらない!”と思うものもあるかもしれません。でも、その反面、ハマるものもどこかにあるはずです。だから、食わず嫌いで何でも首を突っ込んでトライすることで世界は広がると思います」
卒業制作展はプレゼンテーションの場
また、作品の近くに名刺をつくって設置している学生がほとんどで、卒業制作展を機にイラストの依頼や問い合わせがあることも少なくないのだとか。
実際、展示会場でも名刺を手にとっていく来場者を何人も見かけました。卒業制作展は4年間で見つけた自分の表現を発表する場であると同時に、まだその存在を知らない人たちに向けたプレゼンテーションの場でもあるのです。
取材日:2018/02/11
取材・文:小西七重
写真:加納俊輔
2018 04/01